【戦術分析】第9節 V長崎vs清水エスパルス|開始4分の暗転|清水の奇策に揺れた長崎の現在地

 ホームで清水エスパルスを迎えたV-ファーレン長崎は、前半の3失点から挽回できず0-3の完敗に終わった。9節が終わり百年構想リーグの折り返しとなり、長崎は勝点12で6位に位置している。

 今日の試合の結果から言えば、当然非常に悔しい敗戦である。しかし、そこには明確な戦術的な意図と、それに対する誤算、そして後半に見せた微かな修正の跡が刻まれていた。今回はこの試合を振り返り、長崎の現在地を浮き彫りにしていきたい。

フォーメーション・スタメン

 長崎は前節3バックであったが今節は[4-2-3-1]のフォーメーション。前節からGK含めて5人の変更。
 清水は前節まで4バックであったが今節は[3-4-2-1]の3バックを採用。前節より4人の変更。

1. 清水の「奇策」:3バック採用という誤算

 この試合を決定づけたのは、開始4分内での2失点であるが清水の3バックシステムが長崎にとって大きな誤算であった。

 長崎はこの試合[4-2-3-1]のシステムを採用。これに対し、清水エスパルスが送り込んできたのは、今季のリーグ戦で初めてとなる[3-4-2-1]の3バックシステムであった。清水側には負傷者の影響があったと推察されるが、このシステム変更が長崎のプランを根本から狂わせることになる。長崎は当然、清水が4バックで来ることを想定して準備を進めていたため、まさに虚を突かれた形となったのである。

まず、守備局面において、長崎は[4-4-2]のミドルブロックを形成していたのだが相手のビルドアップが3バックであるのに対し、この陣形では効果的にプレスをはめることができない。さらに、エースのマテウス・ジェズスが守備を免除されているという特殊な事情も相まって、パスコースを制限できず、ファーストラインを容易に突破されるシーンが頻発した。これにより、清水が悠々とボールを保持する時間が長くなってしまった。

2. 絶望の入り:開始7秒と3分に起きたこと

 サッカーにおいて「試合の入り」の重要性は語り尽くされているが、この試合ほどその重みを感じたことはない。

 開始わずか7秒、そして4分。立て続けに喫した2失点は、長崎にとってあまりにも重い十字架となった。清水のFWオセフンによるGK後藤への猛烈なプレスによって、蹴ったボールがそのままゴールへ吸い込まれるように入ってしまったのが1点目。2点目に関して、得点したSH嶋本をマークしていたCB進藤はクロスが来ると予測できていなかったのだろう。SH井上は、ボールを持った後に顔を上げて中を確認することなく高速クロスを上げてきたため、進藤は反応が遅れ嶋本に先にボールに触られたことで得点を許してしまった。

 いきなり2点のビハインドを背負い、追う立場となった長崎としては早くに追いつきたいところであったが、問題は清水の守備強度を高かったことで長崎はボール保持率を高めることができなかったことで清水陣営にボールを運ぶ機会が少なかった。

 では、その清水の守備に関してであるが、[5-2-3]の陣形から繰り出される統制されたハイプレスが特徴だ。ボランチの位置も高く設定されており、長崎のダブルボランチである山口蛍とピトゥカは、すぐにプレスにさらされることとなった。

 通常、相手が3枚でプレスをかけてくるのであれば、4バックの長崎は数的優位を活かしてビルドアップを行えるはずである。しかし、清水の前線3枚は闇雲に広がることをせず、まずは中央のパスコースを閉ざし、そこからサイドへと誘導するようにプレスをかけてきた。この際、清水のSH嶋本と井上がサイドバックに対しても素早く寄せていたため、長崎の数的優位は実質的に無力化していた。

 山口やピトゥカは、清水のファーストラインの手前でボールを受け、なんとか循環させようと試みる。しかし、そうすると中央のエリアから人がいなくなってしまうため、パス回しは自ずと「外回り」に限定されてしまう。清水のプレスも意図的にサイドへ誘導するものであり、長崎は相手の術中にはまったまま、効果的な前進を行えない時間が続いた。

3. 前半の急な修正と翁長の異例な起用

 前半22分、江川がピッチに倒れ込んだ時を境に、長崎はシステムを3バックへと変更することを決断する。

 守備時には[5-2-3]のミドルブロック、深く押し込まれた際には[5-4-1]となる可変的な陣形だ。驚くべきは、この可変において翁長聖を右CBのポジションに配置したことである。これは極めて異例のコンバートであり、ベンチの苦悩が垣間見える選択であったと同時に当初のプランが総崩れになっていると感じた。

 しかし、このシステム変更も攻撃面では裏目に出る。特に[5-4-1]で守る時間帯においては、奪った後のカウンターに移行しようにも、前線の人数が圧倒的に足りない。結果としてカウンターが成立せず、再び清水に押し込まれるという負の連鎖を断ち切ることができなかった。これが、前半を通じて長崎が攻撃の形を全く作れなかった大きな要因の一つである。

 清水の攻撃は、保持局面においても非常に理にかなっていた。アンカーの役割を果たすマテウスブエノに対し、もう一人のボランチである宇野が、長崎のボランチの脇という絶妙なポジションを取る。これにより長崎のファーストラインが広げられ、中盤に容易にボールを通される、あるいは宇野自身がボールを運ぶスペースを献上することとなった。また、シンプルに前線のオセフンへロングフィードを送り、確実に収められる攻撃も非常に効果的であった。

4. 後半の修正:マテウス・ジェズスの役割変化とビルドアップの改善

 ハーフタイムを経て、長崎は翁長に代えてエドゥアルドを投入する。これは3バックを継続し、再び前からの守備の安定を図るというメッセージと考える。

 後半に入ってからのマテウス・ジェズスの役割の変化した。前半の最後あたりでもみられていたが彼はボランチの位置から、さらに最終ラインまで下がってボールを受けるようになった。マテウスがボールを持つことで1枚相手選手をかわすことができ、そこからボールを循環させる役割となっていた。

チーム全体としては、守備時には5バックの形を維持しつつ、ビルドアップ時には4バックに変化する可変システムを採用し、これが功を奏した。4バック化した際、左肩上がりに可変しサイドバックに当たる選手がピッチの幅を最大限に取ることで、清水の前線3枚のプレスが分散されることとなった。

 前半、あれほど苦しめられた清水の両脇の選手によるプレスが、立ち位置の調整によって行いにくくなったのである。これにより、長崎はスムーズにボールを前進させることが可能となり、保持率は飛躍的に向上した。といいつつ、清水側としては前半に3得点しているためペースを落として守備に重きを置いた可能性が大きい。長崎を分析すれば5バックのブロックを形成すれば守れる可能性が大きいと判断するはずだ。

5. 突きつけられた宿題:ブロック攻略と「オフ・ザ・ボール」の欠如

 長崎はボールを持てるようになった。相手を押し込むことにも成功した。しかし、得点は生まれない。ここに現在の長崎が抱える、深刻な課題が凝縮されている。

 昨シーズンから継続して見られる傾向だが、長崎は相手が形成する守備ブロックを攻略することを極めて苦手としている。

 私が分析する中で最も気になったのは、ボールを持っていない選手、すなわち「オフ・ザ・ボール」の動きの少なさである。相手の最終ラインを突破しようとする背後へのランニングが、決定的に不足しているのだ。

 もし、誰かが勇気を持って裏のスペースへ走り抜ければ、清水の最終ラインを前後に揺さぶることができる。ラインが下がれば、そこにスペースが生まれる。そのスペースに他の選手が入り込み、ボールを引き出すことができれば、決定的なチャンスを創出できるはずである。

 しかし、現在の長崎にはそのような相手のブロックを強制的に動かすアクションが見られない。足元でのパス交換に終始してしまえば、清水の堅牢なブロックを揺るがすことはできず、相手にとっての脅威にはなり得ないだろう。

6. この試合で何を試みたかったのか

 完敗の内容であったが、元々長崎はどのようなプランを考えていたのだろうか。

 今節、スターティングメンバーにピトゥカを起用した意図を考える。これまでの試合のように、後方から安易にマテウスへのロングフィードに頼るのではなく、しっかりとボールを繋いで動かそうという意図が感じられた。実際にピトゥカ経由でのパス循環は、チームに落ち着きをもたらしていたように見える。

 また、右WGで先発した岩崎悠人のポジショニングも興味深いものであった。彼は単純にサイドライン際に張るだけでなく、意図的にハーフスペースやセンターレーンにポジションを取り、そこから裏へと抜ける動きがみられていた。

 これは、清水がハイラインを設定することを見越し、その背後を突くことを事前に想定していた結果であろう。こうした個のインテリジェンスをチーム全体で共有し、連動した動きへと昇華させることができれば、今の停滞感を打破する鍵になるかもしれない。

7. まとめ:敗戦を「修正力」の糧にできるか

 開始3分での2失点。清水の3バックという奇策に翻弄された前半。そして、保持の形は改善したものの、崩しのアイデアに欠けた後半。この試合は、長崎にとって非常に多くの「宿題」を突きつける結果となった。

しかし、後半に見せたビルドアップの修正は、間違いなく次へつながる一歩である。第3節の名古屋グランパス戦で見せたような、状況に応じた柔軟な修正力こそが、J1という過酷な舞台で生き残るために不可欠な要素なのだ。

J1の壁は高く、険しい。広島や神戸、そして今回の清水といった強豪との戦いを通じて得た教訓を、いかに血肉に変えていけるか。

 我々サポーターにできることは、戦術的な課題を共有しつつも、ピッチで戦う選手たちを信じて声を送り続けることであると考える。あくまでも今は百年構想リーグであり、色々と取り組み試せる機会であるため、大いに失敗をしてもよいという考えのもとで観戦できたらと思う。

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