【戦術解説】レビュー 2025年 J2第16節 V・ファーレン長崎VS大分トリニータ

 アウェイの大分トリニータとの九州ダービーで2-1の逆転勝利を収めたV・ファーレン長崎。勝利したことで勝点24とし、リーグ順位を1つ上げ9位となった。
 この試合での長崎は、直前のアクシデントがあったようで予定の4バックから3バックの布陣に変更して試合に臨むことになった。今回は、その3バックに関して戦術的にどうであったかを考察していきたいと思う。

フォーメーション

 長崎は3-5-2(3-1-4-2)、大分は3-4-2-1の基本布陣。

カウンターの大分、攻略する長崎

 この試合では、ブロックを形成してカウンターで得点を狙う大分とそのブロックを攻略する長崎というわかりやすい構図となり、自ずと大分のボール保持率は低く長崎のボール保持率が高くなっていた。では、具体的にフォーメーションのかみ合わせと、どのような可変をお互いしていたかをみていく。

 まず、長崎がボール保持する際は基本布陣の3-1-4-2のまま行う。それに対して、大分は積極的なプレスを行わず、3-4-2-1の2シャドーを2列目の両サイドにポジショニングさせて5-4-1のブロックを形成。このままでは、長崎の3バックに対して大分は1トップとなり3対1の数的不利となるためブロックのままだと良いように押し込まれる。

 そこで、大分の1トップはAC安部にボールが渡らないようにパスコースを消しながら守備を行い、2列目に入ったシャドーのどちらかが前にスライドして左右CBへプレスを試みようとすることがみられていた。ただ、長崎のIH山口が度々AC安部の脇に降りて2VO化してボールを受けることでボール循環がよくなるようにして相手ブロックを押し込む。

 そして、この試合ではこれまでとは違い長崎のCBもしくはACからの縦パスが多くみられた

 これは、先ほどのIH山口が2VO化し大分1トップが山口の方まで警戒してパスコースを消すようしていたことで、AC安部へパスコースが空くため安部がパスを受け、FW山崎・マテウスがライン間でボールを受けるという流れとなっていた。
 また、AC安部をさらに警戒して大分のVOが前にスライドしてマークをしようとするが、2VO間がさらに空くためCBから直接FWへのパスが通るなっており好循環なパス回しとなっていた。

 この縦へのパス(楔のパス)が通ることでのメリットが同点弾に繋がっている。
 そのメリットは、相手守備陣を中央に集めることができる点だ。

 右サイドからボールを受けたAC安部が前線に張ったFWマテウスへ縦パスを出す。ボールを受けたマテウスがボールをキープしたことで相手守備陣を中央に収縮するように集まる。そこから、再び右サイドのWBマルコスへボールを出す。一度守備陣を中央に集まらせたことで、相手のプレスが遅れると同時にマルコスはクロスを上げる余裕が生まれ、精度の高いクロスを上げることができる。そこから、大外のファーにポジショニングしていたWB増山にクロスを入れて得点が生まれた。


 さらに、付け足して言うならばIH山口の動きも素晴らしく、マルコスのクロスが上がった際にゴール前に走りこんでいる。この動きは相手の右CBと右WBの間を走りこんでいるため、本来増山をマークするべき右WBが山口につられたことで、クロスボールにWBがジャンプしても届かず増山にボールが渡ることができていた。もしかしたら、この山口の飛び出しがなければ得点できなかったかもしれない。

 長崎の攻撃シーンでよかったことを挙げたが、先制点の守備の対応は相変わらずであった。大分のFWに対して3人で競りに行ったあげく、自分達のクリアミスからボールを拾われ押し込まれてしまっていたため、クロス対応を早く改善してほしい。

選手判断のビルドアップ

 押し込まれやすい状況を打開すべく大分は前半はほぼ5-4-1であったが、後半から5-2-3へ守備ブロックを変更してきた。両シャドーを前線に押し出して前線を3人にすることで、長崎の3バックの同数にする。さらに、大分の2VOが長崎のIH山口とAC安部にマークしてここも同数にしてきた。こうなると、長崎のビルドアップが滞るかと思ったのだが、長崎は2つ変化を加えた

 1つ目がAC安部が最終ラインに加わり4バックを形成したことだ。これにより、3対3の同数であったのが安部が加わったことで4対3の数的優位を作れるためプレスがハマりづらくなる。
 2つ目がIH松本が大分の2VOの脇に降りてボールを受ける方法だ。5-2-3だと2VO脇にスペースがあるためここでボールを受けやすく、これは最終ラインではなく2ライン目で数的優位を作れる。

 おそらく、この変化は監督の指示というより選手自身で判断したものと考えられる。臨機応変な判断をすることができていたことで相手に主導権を握らせることなく、自分たちで試合を進めれていた。

長崎の3バックのメリット・デメリット

 この試合をみたファン・サポーターは、3バックの可能性を大きく感じたに違いない。長崎の3バックは守備的な意味ではなく、かなり攻撃的な3バックであると感じた。これは、現日本代表が4バックから3バックに変更したものと同じように感じる。では、3バックの変更にあたりメリット・デメリットを考えてみたいと思う。

〇メリット
・FWを2枚起用できる
 従来の4-1-2-3、4-2-3-1ではFWが1枚で限られているが、3-1-4-2であればFW2枚を起用でき、自ずと攻撃力が上がる。

・WBが高い位置でボールを持てれば攻撃力↑
 ボールを保持できることを前提としているならば、WBは高い位置でボールを受けることができドリブルの得意な増山・マルコス・松澤・笠柳がドリブルで仕掛けてチャンスを作ることが多くなる。

・5バックにより質的→数的優位で守備力向上
 現在の長崎の守備陣は守備の質があまりよろしくない(主にクロス対応)。これは、個人の能力であるため練習で能力を上げてもらわないと改善しないと思う。そのため、4バックより5バックにすれば人数が増えるため、苦手なクロス対応は改善するかもしれない。

〇デメリット
・CBの消耗が激しい
 現在長崎は櫛引・照山・新井のCBを代えながら試合に臨んでいるが、3バックだと全員を起用する必要がある。そうなると、CBはフル出場する必要がありこれを毎試合は消耗が激しく、怪我のリスクも高くなる。


・SBの選手起用が難しい
 これは現日本代表にもみられたものだ。3バックだとWBが最終ラインに入って5バックを形成するが、攻撃な3バックのWBとなると攻撃力のある選手が起用されることになる。長崎に所属していた毎熊晟矢が4バックの時に代表に選ばれていたが、3バックを起用し始めてから代表に呼ばれなくなった。

 同様に、長崎でも選択肢として先ほど挙げた増山・マルコス・松澤・笠柳が選択されるが、SBの高畑・関口・米田・飯尾などは第1選択とはなりにくい。
 守備固めとしてなら起用はされるが、途中出場となることが予測されるため残り10~20分程の出場機会にSBの選手達としてはあまりよくは思わないだろう

・WBの適正(守備面)
 ボール保持率が高くなることを想定して3バックを起用されるため、WBは攻撃的な選手を起用されるわけだが、ボール保持があまりできず守備に回ることとなった際にWBの守備力が試される。増山はいいとして、その他のWG選手では5バックで守れるかというと不安が大きい。

総括・展望

 攻撃的な3バックにより勝利を収めることができた長崎であるが、最初からというより後半から使用するオプションとして3バックを使用するのがいいかと思われる。従来通り前半は4バックで臨んで、先制点を許して折り返した時に攻撃的に行きたい場合に、ガラッと3バックに変更すれば相手も戸惑うはずだ。このやり方は、カタールW杯のグループステージで日本代表がドイツ・スペインを撃破した方法である。
 そうしないと、SBの出場機会が激減することでSBの選手に対してのマネジメントが難しくなり監督に対して不信感がでるだろう。

 次節は首位のジェフユナイテッド市原・千葉と対戦する。千葉は長崎と違い攻守ともに安定したチームであり、得点力が高いため長崎が無失点する可能性は低いように思える。そのため、新しくみせた3バックを次節も使用するかどうかが注目される。守備の改善を願いたいが、今シーズンのバルセロナのように失点数は多いが圧倒的な攻撃力で戦っていくのも、私としてはエンターテインメント性があるためいいのではないかと考える。
 とにもかくにも、長崎のホームであるため意地をみせて勝利してほしい。

 

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