【戦術解説】27節レビュー V長崎VSレノファ山口|個の質的優位を活かす

 3連勝をかけたホームでレノファ山口を迎えたV-ファーレン長崎は、後半アディショナルタイムにゴールをこじ開けて1-0で勝利した。この試合をみて、「なぜ攻撃がこれまでよりもうまくいかないのか」と思ったはずだ。今回は、決定機が少なく引き分けに終わってもおかしくなかった長崎の攻撃に関して考察をしていく。

フォーメーション

長崎は[3-4-2-1]の基本布陣。前節からCBエドゥアルド→江川、IH松本→澤田のメンバー変更。また、左右のWBを入れ替えてきた。

山口は前回対戦時と大きく違い、[3-3-2-2]の基本布陣。この布陣はあまり見ないため、試合中にどのように可変していたのかを後述していく。

山口の守備|殻の籠らないアグレッシブさ

 長崎の攻撃をみていく前に、まずどのように山口が守備を行っていたかをみていく。
 山口は、①相手が後方からビルドアップを行っている時と②押し込まれた時で守備の陣形が違う。

相手が後方でビルドアップを行っている時

 長崎と同じ[5-2-3]のミドルブロックで守備を行う。両WBが最終ラインまで下がり5バック、2シャドーのうち左シャドー山本が前線に出て前線3枚、そして右シャドー野寄とAC輪笠が2VOとなる。
 長崎と同じミドルブロックであり、積極的に前からプレスを行うわけではない。プレスの開始位置は、相手がディフェンシブサードからミドルサードにボールを運ぶ際にプレスが開始される。また、長崎と同じようにサイドへ相手が展開してか場合は前線3枚の左右がマークへ行くのも同じである。
 

 長崎と同じ守備であり、加えて長崎の攻撃時のかみ合わせを踏まえると、ピッチ全体を見た時にマンツーマンディフェンスとなるため、守備を剥がすのに工夫が必要であった。この守備に対して、長崎がどのようにしていたかは後述していく。

押し込まれた時(自陣での守備)

 長崎のビルドアップを止めきれず自陣まで押し込まれた際は、[5-4-1]のブロックで守る。両WBが最終ラインに入り5バック、FW有田が前線1枚となり、残りの選手が2列目4枚となる。

 以上の2つのブロックにて守備を行っていた山口であるが、守備で徹底されていたのが①ネガティブトランジションの速さと②スライドの速さであった。
 「ネガティブトランジション」とは、攻撃から守備への切り替えのことをいうのだが、山口は長崎のカウンターで起点となるマテウスやフアンマに対して激しくマークを行う。その間に、山口の選手は素早く帰陣してブロックを形成することでカウンターを警戒していた。

 そして、ブロックを形成した後の守備においても、横のスライドの速さによって1対1ドリブルを仕掛けてきてもすぐにヘルプがくるようにしていた。特に、中央にドリブルしてきた相手に対してのスライドを素早く行い対応していた。
 

長崎の攻撃

 では、山口の守備をもとに長崎の攻撃についてみていく。まず、山口のミドルブロックに対して長崎がビルドアップをどのように工夫していたか。2つ工夫がみられ、これまでのリーグ戦でもみられたものであるが改めてそれぞれ特徴をみていく。

長崎のビルドアップ|最終ラインで数的優位

 前節鳥栖戦でもみられた、GK+CBもしくはVO+CBでの数的優位を作ることがこの試合でもみられた。相手のミドルブロックと組み合わせみると、長崎の3CBと山口の前線3枚が数的同数となるためプレスを受けやすく、それ以外の所でもマンツーマンディフェンスとなるため長崎はフリーとなる選手がいなくなる。そこで、GKかVO含めてビルドアップを行うことで山口の前線3枚では対応できずボールを前に運ばれる。

 この場合、多くはサイドからボールを前に運べる形となるのだが、山口の場合ボールホルダーに対してVOがプレッシャーに向かっていた。前半24:55のプレーでは、VO山口が最終ラインまで下がり、左CB江川にボールを渡すとボールを前に運び山口のVOを前におびき寄せる。そうなると、VOがいたスペースが空くためそこへパスを出して相手陣内へ侵入することができていた。

長崎のビルドアップ|サイドでの位置的優位

 [5-2-3]で守る際は、2VO脇のスペースができるためここで起点とされやすい。ただ、このスペースを左右CBが前にスライドすることで対応してくるチームが多いため警戒される。そこで、長崎はVOもしくはシャドー(特にマテウス)はCBとWBの間に立つようにポジショニングしていた。

 特に、シャドーの選手が下がった場合は相手は対応が難しくなる。元々シャドーをマークしていた選手はCBであるため、そのままマークすると最終ラインにスペースを作ることになる。そのため、CBはマークできずシャドーの選手はプレッシャーを受けずにボールを持つことができる。

山口の守備を崩すには?

 ビルドアップを工夫していたことで相手を押し込むことができていたが、前述した山口の守備によってなかなか崩すことができず、シュートまで持っていくシーンが少なかった。正直、5バックのブロックを崩すことはサッカーにおいて難易度が高いものである。では、今回の試合ではどのような攻略がよかったのだろうか。

 後半、IH澤田に代わりエメルソンが出場してから長崎がシュートまで持っていけるシーンが増えていた。これは、エメルソンを出場させるべきだと言いたいのではなく、エメルソンがみせたプレーに注目したい。それが、「ドリブル」である。

 前述した通り、山口の守備はほぼマンツーマンディフェンスのような形であるため1対1で対峙することになる。そのため、パスを回してかき乱すならば細かくポジションチェンジを行わないと、この1対1を崩すことができない。そこで、エメルソンが魅せた「ドリブル」が最も簡単で効果が発揮しやすかったと考える。

 というのも、ドリブルによって自分と対峙している相手選手を抜くことができれば、他の選手をマークしていた相手選手は当然ドリブルを止めるためにマークを外して対応しなければならない。そうなると、味方の選手がフリーでボールを受けることができマークにずれを生み出すことができる。

 個人の技術に頼るのかよ、と思う方もいるかもしれないがこれも立派な戦術であり、「個の質的優位」を活かしたものである。実際、近年5バックを使用するチームが増えているが、この攻略法としてWBがサイドからドリブルを仕掛けて相手選手を抜き、クロスかシュートによって得点チャンスを生み出すことがみられている。これは、日本代表の三苫や元長崎所属の松澤を思い浮かべてもらったらわかるだろう。

 そのため、この試合のエメルソンもそうであるが、早い時間にWB米田を交代してもよかったのではと個人的に思う。米田は、攻守においてその走力を活かして貢献してくれるがドリブルで相手を抜き去ることが得意とは言えない。この試合では、山口がカウンターを警戒して帰陣するのが速く守備時にスペースがあまりない状態であるため走力を活かす場面が少なかった。そして、ある程度相手を押し込むことができる試合であったと考えると、早期に笠柳と交代して相手ブロックを崩すことが最も簡単にできる対策であったのではないかと考える。
 

総括・展望

 どのチームも5バックを崩すことは難しく毎回議論となりやすい課題である。この試合でも相手ブロックをどう崩すかに悩んだ長崎であったが、後半アディショナルタイムの江川のヘディングによる劇的ゴールによって勝利を掴むことができた。

 この試合の結果により、1位水戸と勝点4差、2位千葉と勝点が並ぶことに成功(千葉とは得失点差によって下回る)。そのため、次節の結果次第で自動昇格圏に入ることができる可能性がある。

 その次節の対戦相手は、藤枝MYFCである。第7節のアウェイで対戦したが2-3で敗戦している相手である。藤枝は攻撃的なサッカーを行ってくるチームであるため、今回の山口のように長崎が押し込む時間が長くならないのではないかと予想している。そのため、この試合では発揮できなかった「カウンター」が得点を生む攻撃になるはずであると考えている。

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