【戦術解説】25節レビュー V長崎VSコンサドーレ札幌|負傷交代から生じた戦術の変更|

 元J1勢3連戦の2戦目であるコンサドーレ札幌をホームで迎えたV・ファーレン長崎は、アディショナルタイム7分にマテウス・ジェズスの劇的ゴールによって2-1で勝利した。これで高木体制となってから7戦負けなしで順位を4位まで上げた。

 昇格に向けて勝ち続けることが必要であったためこの勝利は大きい。スタッツをみても長崎が圧倒的にゴールへ迫っていたことがわかるのだが、札幌の不運があったことも追い風になっていた。この試合では、3-4-2-1のミラーゲームであったことから両チームのシステムの可変札幌のMF高嶺が負傷交代してからなぜ得点が生まれたのかを戦術的にみていく。

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フォーメーション

長崎は3-4-2-1の基本布陣。前節からFWフアンマ→エジガルの1人を変更。
札幌も3-4-2-1の基本布陣。前節からのメンバー変更はないが、最終ラインのポジションチェンジが注目ポイントである。

守備に重きを置いた札幌

 札幌は前節対戦したサガン鳥栖戦から3-4-2-1へ変更して無失点勝利をしている。長崎戦においても同じフォーメーションで臨んでおり、長崎が前節対戦した仙台と同様に守備に重きを置いてきた。では、札幌はどのように守ってきたのか。

5-2-3ブロック

 札幌は長崎と同じく5-2-3ブロックで守備を行ってきた。長崎は3-4-2-1のままでボールを保持するためそれを組み合わせみると、長崎の最終ラインと札幌の前線が同数となり、長崎と札幌の2VOも同数となることから中央へのパスが難しくなることがわかる。

 ただ、長崎と違う点として札幌は前線からプレッシングに来るわけではなく、ミドルブロックを組むことを前提としていた。そのため長崎は最終ラインであまりプレッシャーを感じずにボールを保持することができていた。おそらく、仙台と同様に長崎の前線にいる外国籍選手を警戒したからではないかと考えられる。

 そして、この5-2-3ブロックからのカウンターにより、VO高嶺のスーパーミドルによって先制点を許す形となる。

マテウスへのマンマーク

 J2では規格外のマテウス・ジェズスを対戦したチームは当然警戒するだろう。だが、これまで対戦してきた中で札幌が最もマテウスを警戒していた。札幌が講じてきた対策は、左CB西野のマテウスへのマンツーマンディフェンスであった。

 このCB西野は相手キーマンやエースを封じるエースキラーのような存在。前節の鳥栖戦ではキーマンの1人であるヴィキンタス・スリヴカに対して、執拗にマークすることで相手を前に向かせず自由にプレーさせていなかった。
 この試合でもライン間でボールを受けようとするマテウスに対し、後ろから激しくマークすることで前を向かせず、マテウスが振り切ろうとしてもフィジカルで負けずに対応できていた。

 それにより、マテウスは西野のマークを嫌がりライン間でボールを受けずに、右WB米田の後方でボールを受けるようにポジショニングするようになった。前線やライン間でボールを持つことが最も驚異的であるため、札幌としてはしてやったりだろう。ただ、これに対しても西野はマテウスを放置するわけではなく、そのままマテウスへマークしてプレッシャーを与えて自由にプレーをさせなかった。

感心したマテウスのプレー

 ただ、改めてマテウスは足元の技術が高い選手というわけではなく、ピッチ全体をみれる選手であると感じたプレーがあった。
 前述した通り、マテウスは西野のマークを嫌がって右サイドの後方までポジショニングするのだが、西野のマンマークを逆手にとったプレーがみられた。

 西野は3CBの一角であるため、西野がマンマークするということは左側の最終ラインの人数が少なくなってしまう。そのため、最終ラインは西野の穴を埋めるために左側へスライドすることになるのだが、それに気づいたマテウスは、前を向いてボールを持つと左サイドへ大きくサイドチェンジのロングボール出す。相手のWBがヘディングで跳ね返すのだが、もともと5-2-3ブロック守っている札幌は2ライン目が2人であるため人数が少なく、セカンドボールを長崎が収めて左サイドから攻撃を行う、というシーンがあった。

 マテウスの機転を利かしたプレーであるが、継続してみられたものではなくマテウスの賢さがみられたシーンである。

対する長崎の攻撃は?

 5-2-3ブロックで守り、マテウスに対してマンマークしてくる相手に対して長崎はどのように攻撃していたのか。前述した通り、長崎の最終ラインと中央のVOが人数で同数となるため中央経由での前進は難しい。そのため、サイドへのパスから攻撃することになるのだが、左サイドからの攻撃が主になっていた。

 これは、マテウスが右サイドの後方にポジショニングしたことで右サイドのバイタルエリアでボールを受ける選手がいなくなり、攻撃が滞りやすかったためだといえる。右WB米田が代わりにバイタルエリアでボールを受けようとしていたが、不慣れでありボールを効率的に回すことができなかった。

 では、左サイドから攻撃しようということになるだが、相手が完全に引いてブロックを組んできた時はうまく崩せない。これは前節からだけでなく今シーズン通してみられるものだ。
 しかし、それでも前半でチャンスを作ることができていたのは、札幌がボールを取ろうと前がかりになって守備が間延びしているところを左サイドからボールを回すことでシュートまでもっていけていたためだ。

 一例で、前半5:15のシーンをみてみる。エジガルがコースへ飛んでいれば得点していたかもしれない非常に惜しいシーンであったが、これより前に遡ると札幌が前線に向けてのクリアボールから始まる。

 クリアボールを競って、セカンドボールを翁長が拾うのだが、そこに右WB高尾がプレッシャーにくる。しかし、横にいた山口にパスを出してプレッシャーを剥がし、松本にボールを渡し前進を図る。そして、エジガルが下がりバイタルエリアでボールを受けると、サイドから駆け上がってきた澤田へスルーパスを出す。ボールを受けた澤田は、対峙した相手を抜かず逆サイドへクロスし、米田がさらにダイレクトで中央に折り返す。そこに、エジガルがフリーでシュートを放つがGKの正面であった。

 この一連の流れは、相手守備陣が引いてしまう前に素早く攻撃したことで生まれたシーンであった。カウンターに近いが自陣深くから始まる通常のカウンターとは違うため、今後のために“ミドルカウンター”と名付けておく。

 このミドルカウンターによってゴールへ迫るが、頻繁にこの攻撃がみられるわけではなく、やはり相手が引いたブロックを崩さないといけない場面がみられた。特に、左サイドでは左IH澤田の動き出しによって相手を押し込んでいたが、澤田個人でのドリブルで打開することは難しくボールを下げるシーンがよくみられていたため、押し込めるけど決定的なシーンが少ないもどかしい攻撃となっていた。

札幌の不運

 後半に入り、長崎はスタートから米田に代わって笠柳が出場する。これは、前半に押し込んでいたがそこから崩せないためドリブルでサイドを崩せる笠柳を起爆剤として起用したためだと考える。それに合わせ、翁長が右WGへポジショニングを変更。狙い通り、笠柳のドリブルからゴール前へのクロスによりチャンスを演出していたが、後半58分札幌に不運が訪れる。

高嶺の負傷交代

 52分に高嶺が松本と対峙した際、足を滑らせて右膝を抱えるように倒れこみ、その後プレーを続行したが58分に負傷交代となった。この交代によって札幌のシステムが大きく変更されるのだが、長崎にとって大きかったのは西野がマテウスのマークを離れたことだ

 高嶺に加えて2人選手交代した札幌は、守備ブロックを5-2-3から5-3-2へ変更。守備を固めつつ、後方重心となりすぎずに攻撃にも転じやすいようにという意図だろう。西野は2列目の中央に配置されたことでマテウスへのマークができなくなった。これにより、マテウスが後ろまで下がらず前でボールを持てるようになる

 また、5-3-2にシステムを変更したことで長崎がボールをより保持しやくなる。なぜなら、システムをかみ合わせると、長崎の最終ラインと札幌の前線では3対2の数的優位を作れてビルドアップが行いやすく、CBが前に運びやすい。CBが前に運べるならば相手を引き付けることができスペースを突くことができる。主に、左CB江川がサイドへ張ることで相手を引き出していた。

劇的逆転ゴール

 後半68分に笠柳のクロスに合わせたマテウスの同点ゴールにより監督の采配が的中。逆転の期待が大きくなったがゴールをなかなか割れず、迎えた後半アディショナルタイムに逆転ゴールが生まれる。

 逆転ゴール前の札幌CB宮とマテウスの攻防は、試合後に物議を醸すシーンであった。リアルタイムでDAZN観戦していた私の感想としては「これはファウルではないか?」というのが第一であった。しかし、後々確認するとマテウスが宮の左側から抜け出すと思いきや右側へ抜け出すフェイントによって、宮の肩には手をかけているが交わしていることがわかった。

 このシーンは選手の前後でみていればわかるものであるだろう。横から見て「絶対ファウルではない」と判断するのは難しい。審判も選手の後方から見ていたことでファウルではないと判断したと思う。正直、紙一重なシーンであった。あのシーンをファウルとして判断する審判がいてもおかしくない。

総括・展望

 札幌の不運もあり勝利に持っていけた試合であった。前回の仙台戦と違い、早めの対策として笠柳を後半頭から出場させたのは好采配であった。試合展開によるが、笠柳の成長が著しいため早めに出場して活躍がみたいとファンとしては思ってしまう。

 この試合に勝利したことで暫定で4位に浮上した。1位水戸とは勝点9差であるが、2位千葉とは勝点3であるため自動昇格ラインが目の前になってきた。次節は、アウェイでサガン鳥栖と対戦する。個人的には、アウェイということもあるが札幌よりも苦戦することを予想している。札幌と同じように5-2-3で守ってくるが札幌以上に前線からのプレスが来るはずだ。そこをどのように回避できるかが注目点だ。

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