同勝点で対戦となったV・ファーレン長崎とサガン鳥栖の九州ダービーは2-1で長崎が制した。昇格に向けて大きな勝利である。これにより、長崎は高木体制でリーグ戦8試合負けなし(5勝3分)。元J1勢である仙台・札幌・鳥栖の3連戦を2勝1分で乗り越えた。
この試合では、仙台・札幌と違い長崎がボール保持する時間が少なく、選手も言っていた通り鳥栖のビルドアップを捕まえることができなかった。なぜ、長崎の守備を回避されたのか。そのため、今回は両者の5-2-3ブロックのプレス回避を中心に戦術的にみていく。
フォーメーション

長崎は3-4-2-1の基本布陣。前節から江川→照山、澤田→ピトゥカの2人を変更。ピトゥカは移籍してからすぐの先発出場。
鳥栖は3-4-2-1の基本布陣だが、攻守ともに可変。メンバーは前節から今津→木本の1人を変更。
長崎の5-2-3ブロック対策
長崎と鳥栖の両者は、ミドルブロックを5-2-3に設定する。ただ、この試合では両者とも違う方法で対策をしており、まずは鳥栖の5-2-3に対して長崎がどのようにしてプレス回避をしていたのかをみていく。
最終ラインでの数的優位
鳥栖の5-2-3に対して、長崎のビルドアップは3-4-2-1のままビルドアップを行う。この両者の布陣をかみ合わせてみる。
長崎の3バックと鳥栖の前線3枚で同数となり、長崎の2VOと鳥栖の2列目の2枚で同数となる。これは札幌戦と同じ現象であるが、札幌と違い鳥栖は積極的にプレスを行ってくるため簡単にボール保持することは難しい。そこで、長崎は3バック+GKの4枚とすることで鳥栖の前線3枚に対して数的優位を作り、この可変によって長崎の先制点が生まれる。
前述した通り、3バック+GKの4枚とすることで鳥栖としては前線が数的不利となりプレスがかかりにくくなる。先制点前の前半14:10のシーンを見る。
鳥栖は数的不利となった前線に対してVO西澤が左CB照山にプレッシングを行う。しかし、こうなると西澤がいたスペースが大きく空くことになり、照山は左シャドーの松本にボールを渡すと松本はVOピトゥカにボールを落とし、ここからマテウスへパスを出し先制点の流れになる。
鳥栖のプレッシングによって生まれたスペースを利用できた長崎は素晴らしいが、鳥栖のこの守備の方法自体があまりよくない。おそらく、この西澤のプレッシングはチームとして設定してたものではなく個人の判断で行ったものだろう。なぜなら、もう1人のVO櫻井が低い位置でポジショニングしており、ピトゥカに対し連動してマークを行えておらず先制点に繋がるプレーとなってしまった。。
鳥栖の5-2-3ブロック対策
次に鳥栖の5-2-3ブロックの対策をみていくが、まずは長崎の守備について改めて説明していく。これまでの対戦相手と比べて最も長崎の守備に対しての最適解を出したチームであった。
長崎の5-2-3ブロック
長崎は基本布陣の3-4-2-1から両WBを最終ラインに下げて5バックとなる。そして、両シャドーを前線に上げて前線3枚として5-2-3とする(これは鳥栖も同じ)。ただ、鳥栖と違い長崎は積極的にプレスを行わずミドルブロックを組む。1トップは相手のCBからVOへのパスコースを消しながらジリジリとCBへプレッシャーを与える。
ここで押さえておきたいのが、5-2-3ブロックはその布陣でみてわかる通り2VO脇にスペースができることだ。多くのチームはこのスペースに選手をポジショニングするのだが、長崎はこれに対して3バックの左右CBが前に出て素早くプレッシングすることで相手をこのスペースで自由にさせない。
この守備の弱点を知っているからこそすぐに対応できる守備の方法であるが、鳥栖はこのCBが前に出てきにくい方法をとってきた。
中央での数的優位と位置的優位

鳥栖は長崎のように3-4-2-1の布陣のままビルドアップは行わず、3バックはそのままであるがVO櫻井が1ACとなり、VO西澤がシャドーとなることで3-1-3-3となる。
ここで注目したいのが3シャドーとなることだ。中盤で数的優位となるだけでなく、長崎の5-2-3とかみ合わせると、ちょうど左シャドーのスリヴカ、右シャドーの西澤が長崎の2VO脇のスペースにポジショニングすることになる。また、中央のシャドー西川が2VOの間にポジショニングすることで、2VOはパスを出しにくいように間を狭める必要があり、さらに2VO脇のスペースが大きくなる。
ただ、長崎もこれまでとおり左右CBを前に出して対応すればいいと考えたいが、鳥栖の左右のシャドーはCBとWBの間に立つようにポジショニングする。そうなると、鳥栖のシャドーと長崎のCBとの距離が遠くなりCBが前に出にくくなる。
これに対して長崎は、VOがAC櫻井に対してマークをすることや1トップがACをマンマークするように対応しようとしたが、構造上中盤の数では鳥栖の3-1-3の7枚と長崎の2-3の5枚では圧倒的数的不利であるため、長崎はボールを奪えないまま鳥栖のボール保持率が高まる結果となった。
反則級のマテウス
仙台・札幌の試合と違い、鳥栖にボール保持率を高められ攻撃に転じる回数が減っていたがマテウスの個人技によって長崎に勝利をもたらしてくれた。
先制点のペナルティエリア外からの外から巻くミドルシュートも見事であったが、2点目のヘディングシュートは技術的に非常に難しいものだ。
体はボール方向へ向いてるため頭の振りだけでボールをゴール方向へ飛ばさなければならない。ゴール方向へ飛ばすだけでも難しいものだが、ゴールの上隅のコースへ飛ばすとは、、、。本当にマテウスが長崎のチームの一員でよかったと思う2ゴールであった。
総括・展望
長崎と鳥栖は5-2-3ブロックで守備を行うが、それぞれ違う対策を行ってきた。ただ、鳥栖の対策が長崎の守備を翻弄し戦術的に優れていたと考える。しかし、少ないチャンスながらマテウスの個人の能力を活かして長崎が勝ち切れたのは、これまたサッカーの面白い点だ。
鳥栖が行ってきた対策を別のチームが同じようにできるわけではないと考えるが、最適解を出せなかった長崎としては少し不安が残る試合となった。
次節から長崎は、ボトムハーフに位置する山口・藤枝をホームに迎える。2連勝したことで今節で3位に浮上し、1位水戸と勝点6、2位千葉と勝点3差になっているため、水戸と千葉の結果次第であるが2戦のホームを連勝して一気に自動昇格圏に入りたいところだ。
山口は前回対戦時と違い4バックから3バックに変えている。おそらく、上位の長崎に対してアウェイであるため5バックで守り勝点1をとることができればよいと考えるはずだ。そうなると5バック相手に長崎がゴールを奪えるかが注目されるところだろう。
ホームの試合で観客も多く来るため勝利が必須の一戦となる。
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