2026-27シーズンの第9節、V・ファーレン長崎はアウェイの地でジェフユナイテッド千葉との一戦に臨んだ。前節のセレッソ大阪戦では1-1の引き分けに終わり、連勝こそ逃したものの、第7節の名古屋グランパス戦での2-0の完封勝利から続く粘り強い戦いを維持したい一戦であった。
結果は1-1の引き分けである。アウェイで貴重な勝ち点1を積み上げた長崎は、順位を15位から14位へと一つ押し上げることとなった。しかし、その試合内容は前半と後半で劇的に様相を変えるものであり、長崎が抱える構造的な課題と、高木監督が見せたシステム修正、そして選手たちの執念が凝縮された非常に濃厚な90分間であった。
今回は千葉が仕掛けた守備、長崎が陥った機能不全の理由、そして後半の4-4-2(4バック)変形によって生じたピッチ上の変化について書いていく。
フォーメーション・スタメン

【前半】千葉の「4-2-1-3」プレスと出鼻をくじかれた長崎
試合は立ち上がり早々の5分、長崎にとって極めて痛烈な形で動き出した。右サイドを突破された局面で、ボランチの山田がファールで止めたが、千葉に危険な位置でのフリーキックを与えてしまう。キッカーを務めた千葉のボランチ安井がゴール前へ送った鋭いボールは、対応に入ったチアゴ・サンタナの頭をわずかにかすめ、そのままゴールネットを揺らした。長崎にとっては、立ち上がりの集中力を欠いた幸先の悪い失点となった。
この失点以上に長崎を苦しめたのは、千葉が準備してきた守備構造であった。長崎の基本フォーメーションである「3-4-2-1」(3バックによるビルドアップ)に対し、通常「4-4-2」を採用する千葉はそのままでは前線の枚数が不足し、プレスがかかりにくくなる。そこで千葉は、両サイドハーフを高い位置へ押し上げ、フォワードの1枚をやや下げた「4-2-1-3」の変形プレスを仕掛けてきたのだ。
この配置転換により、長崎の後方3枚のセンターバックおよびボランチに対して完全に人数の噛み合わせが成立した。ビルドアップの出口を完全に塞がれた長崎は、最終ラインから前方へボールを繋ぐことができず、平常運転であるチアゴ・サンタナやマテウス・ジェズスを狙ったロングボールを蹴らざるを得なくなった。
さらに千葉の守備ブロックは縦方向に極めてコンパクトであり、長崎のボールホルダーに対して前後から挟み込むように群がり、次々とボールを回収していった。ボールを奪った後も、コンパクトな陣形ゆえに近くに味方が存在するため、千葉は簡単にボールを失うことなくテンポ良くパスを繋ぎ続けた。これにより前半の始めは完全に千葉が握り、長崎は自陣に押し込められる時間が長く続くこととなった。
圧倒的に押し込む千葉は、16分05秒、そして38分25秒と立て続けに決定的なゴール機会を作り出した。いずれも崩されての絶体絶命のピンチであったが、ここで長崎を救ったのがゴールキーパーの後藤である。後藤の気迫あふれる超絶ファインセーブにより、致命的な追加点だけは阻止することに成功した。
一方で、長崎も守備時の配置に手を加えていた。通常の「5-2-3」ブロックではなく、長谷川がチアゴ・サンタナと並ぶように高い位置を取り、左ウイングバックの米田が縦スライド、マテウスが右サイドへ開くことで、全体的に「左肩上がり」の「4-2-4」のようなプレスを試みたのである。しかし、千葉のコンパクトな陣形とは異なり、長崎のこのプレスは千葉のフォワード矢村にライン間で自在にボールを引き出され、パスを捌かれる結果となり、相手を捕まえきれなかった。
【前半途中の修正】飲水タイム後の転機
劣勢が続いた長崎であったが、前半途中の「飲水タイム」を境に構造的な変化を見せる。ボランチの山口蛍がライン間にとどまらず、最終ラインの近くまで下がってボールを受ける動きを徹底したのである。これにより、長崎は最終ラインで数的優位を作り出すことに成功し、余裕を持ってボールを保持できるようになった。
長崎が後方で数的優位を作ったことで、千葉は前述の「4-2-1-3」による前線からのハイプレスをはめることが困難となった。そのため千葉は無理な深追いを避け、前半途中から撤退して「4-4-2」のコンパクトな守備ブロックを形成する方針へと舵を切った。
ボールを持てるようになった長崎であったが、今度は千葉が敷く「4-4-2」の強固な中央ブロックをいかに攻略するかという壁にぶつかる。
長崎のビルドアップは千葉のブロックの外側で横パスを回す展開が多く、時折中央へ縦パス(楔のパス)を入れるものの、動き直しや第三者のランニングといったアクションが乏しく、非常に単調な攻めに終始した。千葉の集中した守備陣を崩し切るアクションを起こせず、シュートまで持ち込めないまま時間が経過し、前半は0-1とリードを許した状態で終了した。
【後半の決断】4-4-2へのシステム変更と保田の投入
0-1で迎えたハーフタイム、長崎ベンチは果敢な采配を振るう。ボランチの山田を下げ、U-21日本代表での戦いを終えて合流した注目の若手・保田をピッチに送り込んだ。
それと同時に、チームは開幕から継続してきた3バックから、「4-4-2」(4バック)へとシステムを変更する。長谷川をシャドーからボランチへと配置転換し、新投入の保田を左サイドハーフに配置したのである。
長谷川がボランチに入ったことで、前半に引き続いて山口蛍だけに依存することなく、長谷川自身がスムーズにボールを引き受けて前線へと配球する軸となった。これにより長崎のボール保持率は前半以上に高まり、ピッチ全体で流動的なパスワークが生まれるようになった。
長崎の4バック化とボール保持率の上昇に対し、千葉の守備陣には明らかな「意識のズレ」が生じ始めていた。
千葉の前線ラインは長崎の4バックに対して前から奪いにいきたいという意識を持っていたが、千葉の最終ラインはそれを躊躇した。なぜなら、長崎の前線にはチアゴ・サンタナとマテウス・ジェズスという圧倒的な個の力を持つ外国籍アタッカーが鎮座し、さらに右サイドでは増山が果敢に高い位置を取っていたからである。もし最終ラインを高く設定すれば、その背後へロングボールを放り込まれ、一発で入れ替わられる危険性があった。
この恐怖心から千葉の最終ラインはラインを押し上げることができず、結果として前線と後方の間に空間が生まれ、前半に見せた縦にコンパクトな守備ブロックが完全に崩壊した。この千葉の陣形の分断こそが、長崎が保持率を高め、流動的にボールを前進させることができた最大の要因であったと言える。
【アディショナルタイムの劇闘】95分の同点ヘディング弾
前半に比べればはるかに流動的な攻撃を見せつつも、千葉の決死の踏ん張りになかなか決定打を欠いていた長崎であったが、試合終了間際に怒涛のパワープレーを敢行する。ゴール前へアーリークロスやロングボールを怒涛の勢いで放り込み続け、千葉陣内を押し込んでいった。
そして迎えた95分(アディショナルタイム)、ドラマが生まれる。
長崎が放ったクロスに対する千葉のクリアボールを、高い位置まで攻め上がっていた山口蛍が鋭く拾う。山口蛍は一瞬の躊躇もなく、すぐさま精度の高いアーリークロスをゴール前へ供給した。
このクロスにゴール前へ待ち構えていたのが保田である。保田は相手DFの間で打点の高いヘディングを合わせ、ボールはゴール左隅へと吸い込まれた。土壇場の95分に生み出された待望の同点ゴールに、長崎ベンチとアウェイに駆けつけたサポーターは歓喜に包まれた。
試合を通じて、千葉にも追加点のチャンスがなかったわけではない。81分、そして失点直後の97分には、千葉のフォワード呉屋が長崎のゴール前で決定的な場面を迎えていた。しかし、呉屋のシュートはいずれも枠を捉えきれず、長崎としては千葉の決定力不足に救われた格好となった。
試合はそのまま1-1でタイムアップを迎えた。勝ち点3こそ届かなかったものの、アウェイの地で土壇場に追いつく勝負強さを見せ、勝ち点1を持ち帰ることとなった。
進化する長崎のスタイルと4バック併用の未来
今シーズンの長崎は、第5節のガンバ大阪戦での2-2(3バックで2点リードも終盤崩壊)、第6節のヴィッセル神戸戦での1-3(前半苦戦から後半4バック変更)、第7節の名古屋グランパス戦での2-0(5-3-2ミドルブロックと外国籍コンビの覚醒による初クリーンシート)、第8節のセレッソ大阪戦での1-1(終盤の4バック可変・ファイアーフォーメーション)と、試合ごとに試行錯誤を重ねてきた。
この第9節千葉戦においても、前半の「3バック+5バック防御」では相手のハイプレスに飲み込まれて機能不全に陥ったものの、後半に「4-4-2(4バック)」へ切り替えたことでボール保持率を劇的に引き上げ、試合の主導権を奪い返すことに成功した。
ボールを保持して主導権を握り、相手を押し込むという観点において、4バックへの変形は極めて高い効果を発揮している。一方で、千葉戦の後半や過去の試合で見られたように、前傾姿勢を強めることで相手に致命的なカウンターや決定機を献上してしまうという明確なデメリット・リスクも表裏一体で存在する。
しかしながら、チームの戦術的引き出しが増えていることは紛れもない事実である。U-21代表から戻った保田の活躍や、新加入の増山朝陽の力強いプレー、探求されたチアゴ・サンタナとマテウス・ジェズスという絶対的な個の存在は、長崎の攻撃に確かな厚みをもたらしている。
高木監督がキャンプから構築してきた「3バック」を基本軸としつつも、展開に応じて「4バック」をハイブリッドに使いこなす戦術的柔軟性は、これからのリーグを戦い抜く上で極めて強力な武器となるだろう。
アウェイ千葉戦で見せた諦めない執念と、刻一刻と変化する戦術的進化。勝ち点1を積み上げて14位へ浮上した長崎が、次節以降でどのようなサッカーを見せてくれるのか戦術的にみていきたい。

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