【戦術分析】第15節 V長崎VSファジアーノ岡山|波多野のセーブと足で切り拓いた勝利

 V・ファーレン長崎にとって、ファジアーノ岡山という存在は長らく「天敵」に近いものであった。J2時代から数え、対戦成績は岡山が8勝、長崎が5勝、そして10の引き分けという数字が示す通り、長崎は岡山に対して明確な苦手意識を抱えてきた歴史がある。しかし、今シーズン、長崎はその呪縛を自らの力で振り払いつつある。ホームに岡山を迎えた一戦、長崎は2-1というスコアで勝利を収め、見事にシーズンダブルを達成したのである。

 この試合、両チームが選択した布陣は共に[3-4-2-1]。ピッチ上の各所に数的同数が発生する「ミラーゲーム」の様相を呈した一戦は、戦術的な意図が色濃く反映される、非常に見応えのある展開となった。

ミラーゲームにおける「戦術の相似形」と「ズレ」の創出

 両チームの志向するサッカーは類似していた。守備時には前線から[5-2-3]の形でプレスをかけ、状況に応じてリトリートし[5-4-1]のブロックを形成する。攻撃においては、最前線の強力な外国籍選手をターゲットにロングフィードを放り込み、そこからのセカンドボールの回収を生命線とするスタイルである。

 しかし、同じシステム、同じ戦術コンセプトを採用していても、細部の実行力と意図的な「ズレ」の作り方において、両者には明確な差異が存在していた。

 特に前半、長崎を苦しめたのは岡山のシャドー、江坂のポジショニングであった。江坂は中央に留まらず、意図的にサイドレーンまで流れてボールを引き出す動きを繰り返した。これに対し、長崎のボランチであるピトゥカがマークに引きずり出されることで、長崎の中盤の間、いわゆる「ゲート」が広がる現象が散見されたのである。

 前半10分過ぎの岡山の決定機は、まさにこの江坂のポジショニングが起点となった。江坂がサイドでボールを受け、FWウェリックポポへスルーパスを通すことで、長崎の守備組織は一瞬にして崩壊の危機に直面した。さらに23分過ぎのシーンでは、江坂がボールに触れずとも、そのポジショニングだけでピトゥカを釣り出し、中央に降りてきたウェリックポポがフリーでボールを受けて展開するという、戦術的駆け引きを見せつけたのである。

 対する長崎の守備は、[5-2-3]から[5-4-1]への可変プロセスにおいて、岡山に比べるとやや曖昧さが残っていた。ライン間のスペースが広く、そこを突かれる場面が目立ったことは、今後の課題として挙げられるだろう。岡山が極めてコンパクトな陣形を維持し、長崎にライン間でのプレーを許さなかったのとは対照的であった。

波多野の「右足」という名の戦術兵器

 長崎の1点目の同点弾は、まさに現代サッカーにおけるGKの役割を再定義するかのような形から生まれた。波多野からの鋭いロングフィードに対し、シャドーの岩崎が絶妙なタイミングで反応する。岩崎はヘディングでボールをそらし、そのまま相手DFを振り切って右足を振り抜き、ゴールネットを揺らした。GKによるアシストという極めて稀な記録は、偶然の産物ではない。試合前から波多野と岩崎の間で「ロングフィードに反応してくれ」という綿密な打ち合わせがあったからこそ成し得た、狙い通りの攻略法であった。

 さらに逆転の2点目も、波多野のキックが起点となった。チアゴサンタナを狙ったロングフィードのこぼれ球を、ボランチの山田陸が素早く回収。山田はこの試合、岡山の強みであるセカンドボール合戦において、驚異的な反応速度と予測を見せ、中盤の支配権を長崎に引き寄せ続けていた。山田からのパスを受けたチアゴサンタナは、ゴール前を横切るような巧みなドリブルから、相手CBの股を抜く技ありのシュートを決め、追加点に成功したのである。

 岡山の先制シーンでは、FWウェリックポポが極めて狭いコースであるニアサイドを打ち抜く見事なシュートを叩き込む。この失点シーンにおいて、GK波多野を責めるのは酷だろう。むしろ、ウェリックポポをマークしていたCB照山の対応に改善の余地がある。相手を背負った状態から前を向かれ、利き足ではない左足でのシュートを許したシーンは、プレッシャーの強度が不足していたと言わざるを得ない。

守護神が見せた「気迫」と勝負を分けた「質」

 リードを奪った後の長崎は、岡山の猛攻を耐え凌ぐ展開となった。ここで再び輝きを放ったのが波多野である。前半の決定機阻止に続き、56分過ぎのピンチでも体全体を投げ出すような飛び出しで得点を許さない。そして試合終了間際、岡山が放った決死のクロスボールに対し、自らの長身を最大限に活かしてハイボールを処理したその姿には、勝利への執念と気迫が宿っていた。

 決定機の数自体は決して多くはなかった。しかし、この少ないチャンスを確実に仕留めた長崎と、決めきれなかった岡山の差こそが、この試合の勝敗を分けた決定的な要因であった。

総括と次節への展望

 この勝利によって長崎は、苦手としてきた岡山に対してシーズンダブルという最高の結果を手にした。しかし、内容を精査すれば手放しで喜べる場面ばかりではない。特に守備ブロックの形成における曖昧さや、ライン間を突かれた際の対応、そしてCB照山の個別の判断ミスなど、上位を狙い続けるためには改善すべきポイントが明確になった試合でもあった。

 一方で、GK波多野を中心としたロングフィード戦略や、山田陸によるセカンドボールの回収力は、長崎の武器として確実に定着しつつある。特に波多野のパフォーマンスは、次節のセレッソ大阪戦においても大きな鍵を握ることは間違いないだろう。

 ミラーゲームという、ごまかしの利かない真っ向勝負を制した意味は大きい。かつて「J1の壁」にぶつかり、手も足も出なかった初期の苦しみを経て、長崎は少しずつJ1レベルの強度を身につけつつある。

 次戦はセレッソ大阪との対戦だ。岡山戦で見せた決定機の「質」と、波多野の「安定したセービング」が継続されれば、長崎は更なる高みへと登り詰めることができるはずである。今日見せた劇的な逆転勝利は、単なる勝点3以上の価値をチームにもたらした。苦手意識を払拭し、自らのスタイルで勝ち切った経験は、百年構想リーグの長い戦いにおいて、大きな転換点となるに違いない。

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