清水エスパルスのホームで行われた試合は、長崎が2-1の逆転勝利を収めた。第9節での0-3という完敗の借りを返し、泥沼の4連敗からついに脱出することに成功。勝点3を獲得し、ようやく「ほっとした」というのが率直な感想である。
しかし、この勝利は決して楽なものではなかった。前半早々に相手に退場者が出るという圧倒的な優位に立ちながら、一時は先制を許し、ブロックを崩せない長崎の弱点が露呈する場面もあった。なぜ長崎は苦戦し、そしてどのようにして勝利を掴み取ったのか。その内実を紐解いていく。
フォーメーション・スタメン

両チームとも[3-4-2-1]の基本布陣。長崎は前節からMFノーマンキャンベル→松本の1人を変更。
清水はMFステファンス→小塚、MF大畑→DF吉田、MF宇野→弓場、MF北爪→DF日高の4人を変更。
試合の転換点:開始8分の「暗転」と「重圧」
試合は、開始早々に大きな動きを見せた。前半8分、清水のCB住吉がDOGSO(決定的な得点機会の阻止)により一発退場となったのである。これにより、試合は残り80分以上を「11人対10人」で戦うという、長崎にとって極めて有利な状況となった。
清水は当初の[3-4-2-1]から、一人欠いたことで[4-4-1]へとシステムを変更した。当然、清水はハイプレスを継続することが困難となり、自陣に4-4-1のミドルブロックを形成して守備を固める戦術に切り替えた。
本来であれば数的優位を活かして圧倒すべき展開だが、ここから長崎の「苦悩」が始まる。皮肉なことに、長崎はボールを保持して相手の強固なブロックを攻略することを「大の苦手」としているからだ。ボールを持たされる展開となったことで、かえって攻撃の糸口を見つけられない時間が続くこととなった。
【前半のビルドアップ】「可変」の意図と人数過多のジレンマ
この試合で長崎が試みたのは、ビルドアップ時の**「可変システム」**であった。
基本布陣は3バックだが、ボールを保持する際、右CBの翁長がサイドレーンまで開き、サイドバック(SB)のような高い位置を取る。一方で、残りのCBエドゥアルドと新井の2枚で底を支える形へと変化した。清水の前線はオセフンの1枚のみであったため、3枚のままでは数的優位が過剰になる。この判断自体は論理的であり、評価できるものであった。
しかし、実態としては効率的な前進には至らなかった。その要因は、ボランチ(VO)の山口と山田のポジショニングにある。
- 後方の人数過多: 2枚のCBに加え、VOの2枚までもが低い位置まで下がってビルドアップに参加したため、後方に4枚、さらには相手1枚(オセフン)に対して過剰な人数を割く結果となった。
- ライン間の不在: 右サイドで長崎の選手が多くなるとはいえ、局所的に数的優位になるというわけではなかった。そのため、VOのどちらか一人が相手のライン間(DFとMFの間)に顔を出していれば、サイドでさらなる数的優位を作れたはずだが、それが機能しなかった。
この「後ろに重い」状況が、ボールを回していても相手を崩せない停滞感を生んでいたのである。ただ、1VOとなる可変を行った場合、ボールを失った際のカウンターにおいて後方にいる人数が少なくなるリスクも生じる。元々ビルドアップに長けたチームであればこのような可変をしてもいいかもしれないが、長崎の場合はやはりうまくいかないのかもしれない。
先制許した脆さと、デザインされたセットプレー
試合を動かしたのは、数的不利の清水であった。前半21分、長崎は不用意な形で失点を喫する。
ラインを高く設定していた中で、VO山口がボールを奪いに行こうとしたが、清水のVO弓場に巧みに躱されてしまった。山口が簡単にプレスを回避されたことで、弓場がフリーで前を向き、FWオセフンへ絶妙なスルーパスを通された。オセフンのマークに付いていたのは翁長だったが、急な局面の変化に対応が遅れ、最後は弓場にゴールを許した。山口の粘り強さが欲しかった場面であり、長崎の守備の「脆さ」が出たシーンであった。
しかし、長崎も食らいつく。前半33分、右サイドの深い位置でのスローイン。ここで練習の成果が実を結ぶ。
翁長のロングスローを、ニアサイドでCB新井が頭で後ろへそらす。そのボールをファーサイドでフリーになっていたチアゴ・サンタナがヘディングで流し込んだ。まさにデザインされた形での同点弾。停滞していた流れを、セットプレーという「個」と「仕込み」で打破したのは大きかった。
【後半の戦術チェンジ】清水の「強気」と、長谷川の「輝き」
後半に入ると、清水がさらに動いた。シャドーの小塚に代えてCB蓮川を投入し、[5-3-1]へとシステムを変更したのである。このシステム変更は何を意味するのか考えていた矢先に長崎が追加点を奪う。
勝負を決めたのは長崎の「連動」であった。待望の追加点を挙げたのは、移籍後初ゴールとなる長谷川だ。
このゴールには、得点者以外の貢献も見逃せない。
- エドゥアルドの予測: 相手にボールが渡る前に素早くカットし、攻撃の起点を作った。
- チアゴ・サンタナのダイアゴナルラン: サンタナが斜めに走ることで清水のCB2人を引きつけ、中央のバイタルエリアに広大なスペースを作り出した。
このスペースを長谷川が逃さず、浮き球を縦に落とす鮮やかな「ドライブシュート」を叩き込んだ。サンタナの黒子としての動きが、長谷川の技術を最大限に引き出した形である。
さて、改めて清水の[5-3-1]の意図はというと、[5-1-3]という形でプレスをかけることで、長崎の3バック(後半は従来通り3枚で回していた)に対して枚数をぶつけ、1VOが長崎のVOへマークするように高くポジショニングすることで自由にボールを持たせないようにしていた。1人少ないことを感じさせない清水の「強気の采配」により、試合展開は五分に戻された感があった。
総括:台所事情を乗り越えて掴んだ「リベンジ」
結果的に勝利を収めたものの、この試合では長崎の苦しい台所事情も浮き彫りとなった。
驚いたのは、普段ボランチでプレーするピトゥカをCBとして起用した采配だ。これはCB陣の怪我人やコンディション不良が深刻であることを物語っている。前述の通り、本職ではない翁長をCBの一角として使い続けなければならない現状を含め、守備ラインの構築は急務と言える。
一方で、前節からマテウス・ジェズスをベンチスタートとしている点については、筆者は肯定的に捉えている。 これまでの戦いでは、外国籍選手2人を前線に同時起用することで守備のスイッチが曖昧になり、プレスが機能しない場面が多々見られた。今の「3-4-2-1(もしくは5-2-3)」をベースとし、守備の制限を明確にする形こそが、今後J1レベルの相手と渡り合うための最適解ではないだろうか。
今回の勝利で、ようやく連敗の呪縛を解き、清水へのリベンジを果たすことができた。しかし、数的優位を活かしきれないビルドアップの課題や、個の剥がされやすさなど、改善すべき点は多い。

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