【戦術分析】順位決定戦 V長崎VS水戸ホーリーホック|電光石火の先制点と整理された守備ブロックの機能

 V・ファーレン長崎と水戸ホーリーホックとの17位・18位の順位決定戦。結果は1-0で長崎勝利。第8節のファジアーノ岡山戦以来となるクリーンシート(無失点)での勝利を収め、長崎はホームの地で貴重な先勝を手にした。ボールを保持される時間は長かったものの、そこにはこれまでの試合とは異なる、整理された守備のロジックと、個の奮起が見て取れた。

フォーメーション・スタメン

 長崎は[3-4-2-1]の基本布陣。前節から4人のメンバー変更。鍋島がVOとしてプロ初出場となる。
 水戸は[4-4-2]の基本布陣。前節から1人のメンバー変更。

開始26秒、エースが突き刺した電光石火の一撃

 試合の趨勢を決定づけたのは、キックオフからわずか26秒の出来事であった。長崎ボールで始まった直後、この試合でプロ初出場・初スタメンという大抜擢を受けたボランチの鍋島が、前線へロングボールを供給する。ルーズボールとなったがこれをエースのマテウス・ジェズスが収め、左サイドへと展開したところからドラマが始まった。

 左ウイングバックの高畑が、ハーフスペースからサイドレーンへと流れた左インサイドハーフの笠柳へ鋭いスルーパスを通す。パスを受けた笠柳は、対峙する相手ディフェンダーとの巧みな駆け引きでタイミングをずらし、縦への突破から素早いクロスを供給した。中央で待ち構えていたのは、再びマテウス・ジェズスである。彼は高い打点のヘディングで合わせ、ゴールネットを揺らした。

 この得点は、エースとしての決定力を見せつけたマテウス・ジェズスはもちろん、アシストという形で結果を残した笠柳の理想的な形であったと言える。

変化した守備思想:5-2-3ミドルブロックの意図

 先制に成功した長崎だったが、その後の展開は水戸にボールを握られる時間が長く続くこととなった。しかし、この日の長崎の守備には明確な「整理」が見られた。

 基本布陣は従来通りの5-2-3ブロックであったが、これまでの試合のように闇雲に前からプレスを掛けることはせず、ミドルブロックを形成して構える形を選択した。1トップのマテウス・ジェズスは相手センターバックへの深追いを避け、水戸のボランチ一枚へのパスコースを遮断するポジショニングを徹底。もう一枚のボランチに対しては、長崎のボランチがマークに付くことで中央を封鎖した。

 この設定により、水戸は中央経由のパス回しを封じられ、外回りのビルドアップを余儀なくされた。長崎の狙いは、中央を堅く締め、相手をサイドへ誘導することにあったのである。

水戸の攻略法と長崎の迎撃

 対する水戸も、長崎の5-2-3ブロックを打破するための策を用意していた。水戸が狙ったのは、長崎のウイングバック(WB)が縦スライドした際に生じる背後のスペースである。

 長崎の守備メカニズムでは、相手サイドバックまでパスが出るとWBが大きく釣り出される。水戸はこの瞬間に、フォワードが内側から外側へと抜ける動きを見せ、空いたスペースを突こうと試みた。

 さらに、長崎の2ボランチの脇という急所に対しても、水戸は右サイドハーフのマテウス・レイリアを内側へ絞らせ、さらにフォワードの鳥海が低い位置に降りてくることで数的優位を作ろうとしていた。これに対し、長崎はセンターバック(CB)の迎撃によって対抗した。

 マテウス・レイリアには左CBの江川が、鳥海には右CBの翁長がそれぞれ「人」に付く形で対応を整理していた。特に江川のパフォーマンスは特筆すべきもので、マテウス・レイリアに対して執拗なマークを続け、パスが出る瞬間に素早く寄せることで自由を一切与えなかった。

 ただし課題もある。前半12分過ぎに決定機を作られたシーンでは、江川が低い位置まで相手を追いかけてマークに行った結果、本来いるべきスペースを明け渡してしまい、そこを活用されてしまった。気迫のこもった迎撃は長崎の守備を支えていたが、奪いきれなかった際のリスク管理については、今後さらなる改善が必要だろう。

新星・鍋島のデビューと「個」の成長

 この試合で最大のサプライズは、アカデミー出身の鍋島がプロ初出場にして初先発を飾ったことだ。長崎はこれまで若手選手の積極的な起用が多いとは言えない傾向にあったが、その中で抜擢された鍋島のプレーは「及第点」と言える内容であった。

 先制点の起点となったロングボールや、関口へのスルーパスなど、攻撃面では非凡なセンスを見せた。一方で、低い位置でボールを奪われピンチを招く場面もあり、プロの洗礼を浴びた形でもある。しかし、生え抜きの選手がトップチームの舞台で経験を積むことは、クラブの未来にとって極めて重要である。今後、彼がコンスタントに出場機会を得て、チームの柱へと成長していくことを期待せずにはいられない。

勝利の先に見える課題:再現性のある攻撃へ

 クリーンシートでの勝利という結果は、京都戦などで露呈した「個」への依存問題や強度の不足を、組織的な守備の整理によって一定程度克服した証と言える。

 また、これまでの試合では単に前線の外国籍選手へ放り込むだけだったロングフィードについても、今節はスペースを狙った質の高いボールが見られ、改善の兆しが確認できた。しかし、チーム内からも声が上がっているように、ボールを保持して主体的に繋いでいく「再現性のある攻撃」の構築は依然として道半ばである。

 追加点が奪えなかったという点も含め、守備での粘りをいかに得点へと繋げていくか。1-0の勝利を、単なる「耐え切った勝利」で終わらせるのか、それとも「新たなスタイルの出発点」にできるのか。これからの本当J1リーグに向けて大きな課題となる。

コメント

タイトルとURLをコピーしました